秋の夜。澄んだ空には、大きなまんまるのお月さまが、やさしく輝いていました。
ヒヨコ三兄弟のおうちの庭には、すすきが風に揺れ、テーブルの上にはお月見のおだんごを飾る台が用意されています。
「今日は待ちに待ったお月見ピヨ!」
ヒヨコくんが胸を張って言いました。
ぴもんくんはすでに目をキラキラさせて、「お団子とお餅、早く食べたいピヨ〜!」とつぶやきます。
ひよたくんは、きちんと並んだお皿やお茶を見て、「準備は完璧ピヨ。あとはベルちゃんとエルちゃんを待つだけだね」と、しっかり確認していました。
そこへ、ぴょんぴょんと跳ねる足音が近づいてきます。
「みんな〜! 待たせたわね!」
にこやかなベルちゃんと、元気いっぱいのエルちゃんが杵と臼を抱えてやってきました。
「うさぎといえばお餅つき! 任せてね!」
エルちゃんが張り切って杵を持ち、ベルちゃんと呼吸を合わせます。
ぺったん! ぺったん!
夜空に響くリズム。杵の音に合わせて、ヒヨコ三兄弟も手拍子で応援します。
「がんばれピヨ〜!」
「ふわふわになれ〜ピヨ!」
つきあがったお餅は、真っ白でつやつや、ほわほわと湯気をたてていて、いい香り。
みんなで手を丸くして、くるくる、ころころと丸め始めました。
「わぁ、まんまるでかわいいピヨ!」
「このお餅、雲みたいにやわらかいピヨ!」
でも、そのとき……。
ぴもんくんとエルちゃんが、目と目をこっそり合わせました。
(いまだピヨ……!)
(うんっ!)
ぱくっ!
二人は小さな声で笑いながら、丸めたばかりのお餅をお口にポン。
もちもちの食感に、二人は思わず頬をほころばせます。
けれども――。
「ん? さっきよりお餅が少ないピヨ?」
ひよたくんが不思議そうに首をかしげました。
けれど、ぴもんくんもエルちゃんも、くるりと背を向けて知らん顔。
しばらくして、お皿に分けられたお餅を見てみると……。
ひよたくんのお皿には、こんもり山のようにお餅が積まれています。
一方で、ぴもんくんとエルちゃんのお皿には、ちんまりと数えるほどしかありません。
「これは……おかしいピヨ」
ヒヨコくんが腕を組んで、じーっと二人を見つめました。
ベルちゃんも同じように目を細めて問いかけます。
「ぴもんくん、エルちゃん。まさか……つまみ食いしてないでしょうね?」
「え、えへへ……?」
「な、なによぉ。気のせいじゃないかしら〜」
二人はとぼけて笑いましたが……口のまわりには、しっかり白いお餅の粉がついていました。
「やっぱりピヨ! 犯人は二人だピヨ!」
ヒヨコくんが指さすと、ベルちゃんもくすくす笑って、「今度はみんなで仲良く食べようね」とやさしく言いました。
そのとき、夜空のお月さまがいっそう明るく輝いて、庭いっぱいに金色の光を注ぎました。
すすきはきらきら揺れ、テーブルの上のお餅も、まるでお月さまの光を受けたように白く輝きます。
「みんなで食べると、もっとおいしいピヨ!」
「ほんとだピヨ〜!」
こうして、ちょっぴりハプニングもあったけれど、笑い声いっぱいのお月見の夜になりました。
――おしまい。
タイトルのイラストの説明
満月の下で、ベルちゃんとエルちゃんが一緒にお餅つきをしています。エルちゃんはきねを持っていて、ベルちゃんはうすの前に座っています。周りにはヒヨコ三兄弟がいます。