[ひよこものがたり]ことばのおくりもの 第50話「はい」のちから

ある朝、台所からいい匂いがしていました。

お鍋の中では、ヒヨコママの愛情がことこと、ゆっくり煮えています。

その音につられて、

ヒヨコくんとぴもんくん、ひよたくんは、

テーブルのまわりをてちてち、てちてち。

楽しくて、うれしくて、足が止まりません。

「こらこら、走らないの」

ヒヨコママの声は、決してきつくありません。

でも――その声が届いた、その瞬間。

ガシャーン!

床に落ちたのは、大事なお皿。

高く響いた音に、

部屋の時間が、ぴたりと止まりました。

割れたかけら。

ひんやりした床。

三兄弟の胸の奥が、ぎゅっと縮みます。

ヒヨコママは、すぐには怒りませんでした。

三兄弟をまっすぐ見て、

少しだけ声を低くして、静かに言いました。

「さっき、走らないって言ったわよね?」

ヒヨコくんの頭の中で、言葉がぐるぐる回ります。

(でも…)(だって…)

くちばしが、もごもご動きました。

「だって、ぴもんくんが――」

ぴもんくんも、あわてて首をすくめます。

「ボクはお腹が空いてただけで――」

そのとき。

ひよたくんが、一歩前に出ました。

小さな体。

でも、逃げない目。

胸のドキドキをぎゅっと抱えたまま、

小さく、でもはっきり言いました。

「……はい。ごめんなさいピヨ」

その声は震えていましたが、

まっすぐでした。

ヒヨコくんは、その背中を見て、

自分の胸をぽん、と叩きました。

「……はい。ボクが悪かったピヨ」

ぴもんくんも、床を見つめて、

ぽつり。

「はい……ごめんなさいピヨ」

ヒヨコママは、すぐには何も言いません。

割れたお皿を拾いながら、

三兄弟の言葉が、心に落ちていくのを待っていました。

そして、やさしく、静かに言いました。

「言い訳をしなかったの、えらいわ。

『はい』って言葉はね、

怒りを大きくしない魔法なのよ」

三兄弟は、こくこく、こくこく。

さっきより、少し背中がまっすぐです。

床をふいて、後片づけをして、

みんなで食べたその日のごはんは――

叱られたあとのごはんなのに、

いつもより、少しだけ、

胸の奥まであったかい味がしました。

📝 ことばのおくりもの

叱られたときの「はい」は、

負ける言葉でも、我慢する言葉でもありません。

言い訳や自己弁護を手放したとき、

心は守りを解き、素直な場所に戻れます。

短く、まっすぐに。

「はい」

その一言が、

空気をやわらげ、

関係をこわさず、

次の一歩へとつないでくれます。

※アイキャッチの説明(視覚障害者用代替テキスト)

あさのキッチンで、いいにおいがふわ〜っとしてるピヨ🐣

ヒヨコママが、おなべをことことしてるピヨ〜✨

ヒヨコくんとぴもんくん、ひよたくんは、

てちてち集まってきて、ドキドキしながら並んでるピヨ。

まえには、われちゃったおさらがコロコロ…。

ちょっぴりしょんぼりしながら、

「……はい、ごめんなさいピヨ」って言ってるピヨ。

ヒヨコママは、やさしいおめめで見つめながら、

そっとおかたづけしてるピヨね。

おへやはちょっぴりしーんとしてるけど、

こころの中は、あったかくなってきてるピヨ〜🌼

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