むかしむかし、アニマルランドのはずれに、
夜になると音だけがよく響く、しずかなお寺がありました。
そこには、目が見えないヒヨコくんが住んでいました。
ヒヨコくんは景色を見ることはできませんでしたが、
音を聞くことと、歌うことが、だいすきでした。
太鼓のぽん、という低い音。
風が葉っぱをゆらす、さわさわという音。
だれかが近づくときの、足音。
「音は、ボクの目ピヨ」
ヒヨコくんは、そう言って、毎晩太鼓をたたき、
物語のうたを歌っていました。
昼間になると、
ぴもんくんが、お寺まで遊びに来ます。
ぽてぽて歩いて、フィッシュアーモンドをかじりながら。
「ヒヨコくんのうた、
なんだかおなかいっぱいになるピヨ〜」
「えへへ、ぴもんくん、ありがとうピヨ」
そんな、のんびりした日々が続いていました。

――ある夜のこと。
ひんやりした風といっしょに、
いつもとちがう足音が聞こえてきました。
……すう。……すう。
「こんばんはピヨ。お客さんピヨ?」
ヒヨコくんがたずねると、
低く、静かな声が返ってきました。
「そのとおりだ。
今夜も、そのうたを聞かせてほしい」
ヒヨコくんは少しだけ首をかしげました。
でも、悪い気はしません。
「当たり前ピヨ。どうぞ、聞いてピヨ!」
それから毎晩、
黒いお客さまたちはやってきました。
ヒヨコくんは、見えない目の代わりに、
耳と心で気配を感じながら、
一生けんめい歌いました。

次の日、ぴもんくんが、
なんだか不安そうに言いました。
「ねえヒヨコくん……
夜になると、お寺、すごく寒いピヨ……
それに、知らないにおいがするピヨ……」
「そうピヨ?
でも、ちゃんと聞いてくれるお客さんピヨ」
それを、そっと見守っていたのが、ひよたくんです。
ある夜、ひよたくんは、
お寺のすみにたまった冷たい気配を見て、
はっとしました。
「……このお客さん、
生きてる人じゃないピヨ」
足音が、地面にちゃんと触れていない。
息の音もしない。
「ヒヨコくん、あのお客さん……
おばけピヨ……」
ぴもんくんも、ぎゅっと体を丸めます。
「やっぱりピヨ……
ボク、こわいピヨ……」
でもヒヨコくんは、にこっと笑います。
「そうピヨ?
でもね、ちゃんと聞いてくれるピヨ。
ボクのうた」
それでも、
ひよたくんとぴもんくんの胸は、ざわざわしました。
そこで、夜が来る前、
ひよたくんはヒヨコくんの体じゅうに、
まもりのもじを書きました。
あたま、ほっぺ、くちばし、あし。
見えない目のまぶたにも、そっと。
「これでだいじょうぶピヨ。
もじのあるところは、取られないピヨ」
ぴもんくんも、
フィッシュアーモンドをぎゅっと持って、祈ります。
「ヒヨコくん、だいじょうぶピヨ……」
その夜。
また、おばけのお客さまたちが現れました。
ヒヨコくんが歌い終わると、
ひそひそ、ひそひそ、声が聞こえます。
「……おかしい」
「ヒヨコくんが、見当たらぬ」
そして、だれかが言いました。
「……耳も、ない……」
しん、と静かになりました。
ヒヨコくんは、きょとん。
「耳ピヨ?
ボク、最初から耳、ないピヨ?」
その瞬間、
冷たい気配は、ふわっと消え、
夜の音だけが戻ってきました。
朝。
ぴもんくんが、真っ先にかけ寄ります。
「ヒヨコくん!
だいじょうぶだったピヨ〜!」
ひよたくんも、そっと聞きました。
「ヒヨコくん……
こわくなかったピヨ?」
ヒヨコくんは、太鼓をぽん、とたたいて言いました。
「ううん。
見えなくても、聞こえなくても、
ボクのうたは、ここにあるピヨ」
そして、にっこり。
「それにね、
耳を取られると思いきや、
ヒヨコには、取られる耳がなかったピヨ!
当たり前ピヨ!」
お寺には、今日もやさしい音が響いています。
ぴもんくんの笑い声も、
ひよたくんのほっとした息も、
ぜんぶまじって。
見えなくても、
だいじなものは、ちゃんと心で見えるのでした。

※アイキャッチの説明
お寺の前で、
耳なしヒヨコくんが目をとじて、ぽん…ぽん…と太鼓をたたいているピヨ。
となりでは、フィッシュアーモンドを持ったぴもんくんと、
ピンクのスタイのひよたくんが、そっと見守っているピヨ。
夜の森に、やさしい音とうたが広がって、
ちょっぴりふしぎで、あたたかい時間が流れているピヨ。

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