ある日の夕方。
ごはんを食べ終えて、ぽかぽかしたお腹をさすりながら、ヒヨコ三兄弟はリビングでころころ転がっていました。
「ねえねえ、ママ!」
ヒヨコくんが、ぱっと顔を上げます。
「ママとパパって、どうやって出会ったピヨ?」
「ボクも知りたいピヨ〜」
ぴもんくんは、クッションにほっぺをうずめたまま、もぞもぞ。
「学校でね、“パパとママのなれそめ”を聞いてくる宿題が出たんだピヨ」
ひよたくんは、きちんと姿勢を正して言いました。
ヒヨコママは、少し驚いたように目を丸くしてから、ふふっと優しく笑いました。
「そうね……じゃあ、今日は特別にお話ししようか」
三兄弟は「やったピヨ!」と声をそろえ、ママのまわりにぎゅっと集まります。
「ママがまだ、今よりずっと若かったころの話よ」
ヒヨコママは、遠くを見るような目をしました。
「そのころママはね、毎日一生懸命で、ちょっとだけ心が疲れていたの。
誰かのために頑張るのは好きだけど、自分の気持ちは後回しで……」
そんなある日。
ママは、ひとりで海辺を歩いていました。
「風が強くて、少し寒かった日だったわ」
そのとき――
向こうから、大きなスーツケースを持ったヒヨコが、慌てた様子で歩いてきました。
「それが……パパ?」
ぴもんくんが目を輝かせます。
「ええ、そうよ」
ヒヨコパパは、そのころ海外を飛び回る仕事をしていて、久しぶりにこの町へ帰ってきたところでした。
でも、慣れない道で迷ってしまい、困っていたのです。
「すみません、駅はどちらでしょうか」
声をかけられて、ヒヨコママは一瞬迷いました。
でも、その声がとても丁寧で、どこか不安そうで――
「こっちですよ」
そう言って、一緒に歩いたのが始まりでした。

「パパはね、あんまり多くを話す人じゃなかったけど、
人の話を、ちゃんと聞く人だったの」
歩きながら、ママがぽつりと話すと、
パパはうなずいて、時々短い言葉で返してくれました。
その沈黙が、不思議と心地よくて。
無理に笑わなくても、頑張らなくてもいい。
「この人の前なら、ちょっと弱くてもいいかもしれない」
ママは、そう思ったそうです。
駅に着いたとき、パパは深くお辞儀をして言いました。
「今日は本当に、ありがとうございました」
それだけで、去っていくつもりでした。
「でもね……」
ヒヨコママは、少し照れたように笑います。
「ママのほうから、引き止めちゃったの」
「ええー!?」
三兄弟は声をそろえました。
「また、この町に来ることがあったら……その、よかったら」
それが、次の約束になり、
その次はお茶を飲んで、
その次は一緒に笑って。
気がついたら、
「ただいま」と言いたい相手になっていました。
「結婚しようって言葉は、派手じゃなかったわ」
ヒヨコママは、静かに言います。
「“一緒に生きようか”って。
それだけだったの」
でも、その言葉は、ママの心をまるごと包んでくれました。
話を聞き終えて、ヒヨコ三兄弟はしばらく黙っていました。
「……なんか、いいピヨ」
ヒヨコくんが、ぽつり。
「パパらしいピヨ」
ぴもんくんは、にこにこ。
「ママがママでよかったって思う話だったピヨ」
ひよたくんは、そっと言いました。
ヒヨコママは、三羽を抱き寄せて、優しく頭をなでます。
「あなたたちが生まれたのはね、
こうして“大丈夫”って思えた出会いがあったからよ」
その夜、ヒヨコ三兄弟は、いつもより少し安心した顔で眠りにつきました。
だって――
自分たちは、ちゃんと愛の“はじまり”から生まれてきたんだって、知ったから。

※アイキャッチの説明(視覚障害者用代替テキスト)
ゆうやけのうみで、パパとママがくっついてるピヨ〜🌅ピヨ💛
パパはスーツケースをもって、ぼうしもかぶってるピヨ。
ママはピンクのマフラーで、ほっぺがぽわんってあかいピヨ。
うしろには、ちいちゃいボクたちがならんで、にこにこ見てるピヨ〜🐣🐣🐣
あったかい“はじまり”のえだピヨ💛

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