ある日の午後、ヒヨコ三兄弟は庭でおにごっこをしていました。
「つかまえるピヨ〜!」と元気いっぱいヒヨコくんが全力で走り、
「こっちだピヨ〜!」とおっとりぴもんくんが楽しそうに逃げます。
しっかり者のひよたくんも一生けんめい走りながら、声を弾ませました。
「ピヨ~!ボクも逃げなきゃピヨ〜!」
青い空の下、三兄弟の声が庭いっぱいに響きわたります。
そのときでした。
ぴもんくんが角を曲がった瞬間――ドンッ!
勢い余って、お友達のベルちゃんの大切にしていた花壇にぶつかってしまったのです。
ポロポロと土がこぼれ、かわいい花がくたっと倒れてしまいました。
「わあっ!」とベルちゃんが駆け寄ります。
「このお花、毎日お水をあげて育てていたのに…」
ぴもんくんの胸はドキリ。
でも、すぐに口から出たのは「ごめんなさい」ではありませんでした。
「ボ、ボクは悪くないピヨ!ベルちゃんだって花を端っこに植えたからいけないんだピヨ!」
その言葉に、ベルちゃんはとても悲しい顔をしました。
「……そんなこと言わなくてもいいのに。」
気まずい空気が流れる中、ひよたくんが小さな声で言いました。
「ぴもんくん、本当にそうピヨ?花壇にぶつかってしまったのはぴもんくんじゃないピヨ?」
ヒヨコくんも頷きました。
「悪いときは、ごめんなさいって言うのが一番ピヨ。ボクもこの前、リンちゃんの絵本を汚しちゃったとき、すぐに謝ったピヨ。そしたらリンちゃんは気にしないでって笑ってくれたピヨ。」
ぴもんくんは下を向いて、しばらく考え込みました。
(ごめんって言うのは恥ずかしいピヨ…。でも、ボクのせいでベルちゃんが悲しそうな顔をしてるピヨ…。)
胸の中でぐるぐると気持ちが混ざりあい、やっと勇気をふりしぼって顔を上げました。
「……ベルちゃん、ごめんなさいピヨ。ボクが気をつけなかったピヨ。お花を倒してしまって、本当にごめんピヨ。」
ベルちゃんは一瞬びっくりしましたが、すぐにやさしく微笑みました。
「うん、ぴもんくん。謝ってくれてありがとう。大丈夫だよ。一緒に直そうね。」
その声に、ぴもんくんの胸の重たい石がスーッと軽くなりました。
「ほんとに?ありがとうベルちゃんピヨ!」
三兄弟とベルちゃんはみんなで土を直し、お花をそっと立て直しました。
ひよたくんは水を運び、ヒヨコくんは花壇のまわりをきれいに整えます。
ぴもんくんも汗をかきながら、一番ていねいに土をならしました。
「よかった!元通りになったね。」ベルちゃんの笑顔に、みんなもホッと胸をなでおろします。
そのあと三兄弟は、もう一度庭で遊びました。
今度は花壇の近くを避けて走ります。
ぴもんくんは心の中で思いました。
「ごめんねって言うのはちょっと勇気がいるけれど、それで仲直りできるならすごく大切なことピヨ。」
夕暮れの光の中、みんなの笑い声が庭いっぱいに広がっていきました。
ことばのおくりもの
「ごめんね」は、心と心をつなぐ小さな魔法のことばです。
その魔法を使える人は、強くてやさしい人。
あなたの「ごめんね」が、誰かの笑顔を取りもどしてくれるかもしれません。