[ひよこものがたり]ことばのおくりもの第64話「白か黒か?」

ある日のアニマルランド。

春のやわらかい風が吹く昼下がりでした。

ヒヨコ三兄弟は、いつもの広場で遊んでいました。

ヒヨコくんは石を積み上げて、
「どこまで高くできるかピヨ!」
と夢中です。

ぴもんくんはその横で、フィッシュアーモンドをぽりぽり食べながら応援しています。

ひよたくんは少し離れたところで、地面に落ちた羽を拾っては整えていました。

そのときです。

「こらーっ!」

突然、広場の向こうから大きな声が響きました。

見ると、ラジッピが倒れた花壇の前に立っていました。

花は踏み荒らされ、土もぐちゃぐちゃです。

「ラジッピがやったに違いないピヨ!」

ヒヨコくんが思わず叫びました。

「だって、そこに立ってるピヨ!」

ぴもんくんも不安そうに言います。

「うーん……なんだか怪しく見えるぴよ……」

その瞬間、周りの動物たちもざわざわし始めました。

「やっぱりラジッピだ」

「現場にいるしね」

ラジッピは黙ったまま、その場に立っています。

ラジオの体についたアンテナが、少しだけしゅんと下がっていました。

ひよたくんだけが、少し首をかしげました。

「でも……本当にそうかな、ピヨ」

ひよたくんは、花壇の周りをゆっくり歩き始めました。

足跡、倒れ方、土の散り方。

よく見ると、大きな足跡が花壇を横切って、川の方へ続いています。

「この足跡、ラジッピのじゃないピヨ」

「もっと大きな足だピヨ」

そのとき、川の向こうから、息を切らしたすーさんが現れました。

「はぁはぁ……ごめんぞう……」

すーさんは、申し訳なさそうに頭を下げました。

「転びそうになって、花壇を踏んでしまったぞう」

「ラジッピが『危ないです!』って止めてくれたけど、間に合わなかったぞう……」

その言葉に、広場は一気に静まり返りました。

ヒヨコくんは、胸の奥がちくっと痛みました。

「ボク……見たままだけで決めつけたピヨ……」

ぴもんくんも、フィッシュアーモンドをそっとポーチにしまいます。

「ちゃんと見てなかったぴよ……」

ラジッピは少し困ったように笑いました。

「私はただ、花壇を守ろうとしただけなんです」

「でも、皆さんがそう思うのも無理はありません」

「私がそこに立っていましたからね」

ひよたくんは、そっと微笑みました。

「表から見えることだけが、全部じゃないピヨ」

「ちゃんと見ようとすれば、違う景色が見えるピヨ」

夕方の光が、踏まれた花壇をやさしく照らしていました。

みんなで土をならし、花を立て直します。

ラジッピも、すーさんも、ヒヨコ三兄弟も力を合わせました。

誰も責める声は、もうありませんでした。

ただ、少しだけ静かで、少しだけあたたかい時間が流れていました。

📝 ことばのおくりもの

見えたものだけで、すぐに善と悪を決めてしまうと、
大切な背景や、誰かの気持ちを置き去りにしてしまいます。

物事は、たいてい単純ではありません。

理由や事情が、いくつも重なり合っています。

一歩立ち止まって、よく見ること。
耳を澄ますこと。
想像すること。

それができたとき、

世界は「正しい・間違い」の二色ではなく、
もっとやさしく、奥行きのある色に見えてくるのです。

※アイキャッチの説明(視覚障害者用代替テキスト)

森のアニマルランドに、ひよこたちと動物たちが集まっているピヨ。

お花の花壇の前に、足あとがついていて、みんな「だれがやったピヨ?」と困っているピヨ。

上の看板には「白か黒か?」と書いてあって、すーさんとラジっぴがしょんぼり花壇を見ているピヨ。

Comments are closed