[ひよこものがたり]ことばのおくりもの第56話「聞くことと、やること」

ある日の午後。

川の向こうから、ゆっさゆっさと大きな影が近づいてきました。

「うーん、困ったぞう……」

ジーパンとパーカー姿のすーさんが、ため息まじりにヒヨコ家の前で立ち止まりました。

そこへ、てちてちと出てきたのはヒヨコ三兄弟。

ヒヨコくん、ぴもんくん、ひよたくんです。

「どうしたのピヨ?」

ひよたくんが心配そうに聞きました。

「実はなぁ……仕事のことで悩んでる友だちがいるんだぞう。

『どうしたらいい?』って聞かれたから、真剣に話を聞いて、

俺なりにアドバイスしたんだぞう」

すーさんは、どすんと腰を下ろしました。

「でもな……そのあと何ひとつ、やらないんだぞう。

同じことでまた悩んで、また相談してきて……

俺、だんだんモヤモヤしてきちゃってぞう」

ヒヨコくんが腕を組んで言いました。

「それはイヤピヨね!せっかく考えたのに、モヤモヤするの当たり前ピヨ!」

ぴもんくんは、もぐもぐしながら首をかしげます。

「うーん……でも、その人は“やりたい”より“聞いてほしかった”だけかもしれないピヨ」

ひよたくんは、少し考えてから、静かに話しました。

「すーさんは、ちゃんと相手のことを思って話したピヨね。

それだけで、もう十分やさしいと思うピヨ」

すーさんは目をぱちくりさせました。

「……十分ぞう?」

「うんピヨ」

ひよたくんはうなずきました。

「アドバイスってね、渡した瞬間から“相手のもの”になるピヨ。

受け取って使うかどうかは、その人が決めることなんだピヨ」

すーさんは、しばらく空を見上げていました。

川の水がきらきら光っています。

「そっか……

俺は“助けたい”気持ちが、

“やってほしい”に変わっちゃってたのかもしれないぞう」

その顔が、少しやわらぎました。

「じゃあ次からは、できることだけやって、相手がやるかどうかは相手に任せるぞう。

それでモヤモヤしないようにするぞう」

ヒヨコ三兄弟は、にっこり。

「それでいいと思うピヨ」

「すーさん、やさしいぞう!」

「ぞうって言っちゃってるピヨ」

すーさんは大きく笑いました。

「ははは!それは俺の口ぐせぞう!」

川風がふわっと吹いて、

すーさんの心のモヤモヤも、少し遠くへ流れていきました。

📝 ことばのおくりもの

人にできるのは、

話を聞いて、気持ちを込めて言葉を渡すことまで。

その言葉をどう使うか、

歩き出すかどうかは、相手の人生。

やらない選択をされても、

あなたのやさしさまで無駄になったわけじゃない。

「届けた」こと自体が、

もう立派な思いやりです。

※アイキャッチの説明(視覚障害者用代替テキスト)

かわのほとりで、すーさんが「うーん困ったぞう…」ってお話してるピヨ〜!
ヒヨコくんたちは、まんまるおめめでしっかり聞いてるピヨ。
ぴもんくんはフィッシュアーモンドをもぐもぐしながら考え中ピヨ〜。
ひよたくんは本を持って、やさしく言葉を伝えてるピヨ。

空も川もきらきらで、モヤモヤが風に流れていくような、あったかい絵本みたいなイラストピヨ〜!

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