[ひよこものがたり]第85話「よるのおにぎり」 🍙🌙

お昼の出来事は、ヒヨコくんの胸の奥に、ずっと引っかかったままでした。

お片づけを後回しにして遊びに行こうとしたヒヨコくんを、ヒヨコママが呼び止めたのです。

「ヒヨコくん。まずはやることを終わらせなさい」

本当は、それだけのことでした。

でもヒヨコくんは、なんだか急に悔しくなってしまいました。

「わかってるピヨ!」

つい強い声を出してしまい、そのままぷいっと部屋へ戻ってしまったのです。

イラストの説明ピヨ!「むぅ〜っ!もうしらないピヨ!」って、ヒヨコくんがプイッと横を向いてるピヨ〜! おててを組んで、赤いスカーフをゆらしながら、ほっぺをぷく〜っとふくらませて怒ってる姿がかわいいピヨ!

しばらくすると怒りは消えました。

でも代わりに、胸の奥に重たい気持ちが残りました。

――あんな言い方しなければよかったピヨ。

――ママ、悲しい顔してたピヨ……。

夕方。

キッチンから、ことことと優しい音。

湯気といっしょに、ごはんのいい匂いが流れてきます。

「ごはんできたわよー」

ヒヨコママの声を聞いた瞬間、ヒヨコくんの胸がきゅっと縮みました。

本当は行きたい。

みんなと一緒にごはんを食べたい。

でも――。

「今さら行ったら、なんだか負けたみたいピヨ……」

そう思ってしまって、ベッドの端で羽をぎゅっと握ります。

「ボクはいらないピヨ」

強がって言ったものの、お腹は正直でした。

ごはんの匂いをかぐたびに、きゅるる……と小さく鳴ります。

イラストの説明ピヨ!ベッドの はしっこで、ヒヨコくんが 「ボクはいらないピヨ…」って つよがっているピヨ。 でも、ほんとは さみしくて、なみだが ぽろりしているピヨ。 おつきさまが、しずかに ヒヨコくんを てらしているピヨ〜🌙💧

夜。

部屋の明かりが消え、時計の針の音だけが静かに響いていました。

布団の中で丸くなったヒヨコくんのお腹が、

「ぐぅ……」

思わず羽でお腹を押さえます。

空っぽなのは、お腹だけじゃない気がしました。

――ママ、まだ怒ってるかな。

――嫌われちゃったかな。

――ちゃんと謝れるかな……。

考えるほど胸がむずむずして、眠れません。

ヒヨコくんは、そっと布団を抜け出しました。

床を歩く足音をできるだけ小さくして、静かなキッチンへ向かいます。

すると、明かりの下にはヒヨコママがいました。

湯のみを片づけながら、まだ起きていたのです。

その背中を見た瞬間、ヒヨコくんの喉がきゅっとつまります。

「……ママ、ごめんピヨ」

声は、思ったよりかすれていました。

「大きい声出して、ごめんなさいピヨ……。

ちゃんとお片づけするピヨ……。

……お腹、すいたピヨ……」

ヒヨコママは振り返り、しばらく何も言わずにヒヨコくんを見ました。

その沈黙が少しだけ長く感じられて、ヒヨコくんの心臓がどきどきします。

でも次の瞬間。

ヒヨコママは、やさしく目を細めました。

「ちゃんと謝れてえらかったわね」

その言葉を聞いた瞬間、ヒヨコくんの胸に、ふわっと温かいものが広がりました。

「……うんピヨ」

自然と、にっこりしていました。

ヒヨコママがそっと渡してくれた小さなおにぎりは、ほんのり温かくて、

ひと口かじると、涙が出そうになるくらいやさしい味がしました。

夜中に食べるおにぎりは、

ただお腹を満たすだけじゃなく、

「もう大丈夫よ」って言われているみたいな味がしたのです。

ヒヨコくんは、心の中でそっと思いました。

――素直になるのは、ちょっとこわいピヨ。

でも、その先には、こんなにあったかい時間が待ってるんだピヨ。

イラストの説明ピヨ!ママから おにぎりを わたしてもらって、ヒヨコくんが うれしくて ないちゃってるピヨ。 キッチンの あったかい あかりと、おつきさまが、やさしく みまもっているピヨ〜🍙🌙

※アイキャッチの説明(視覚障害者用代替テキスト)

よるの キッチンで、ヒヨコくんが おにぎりを もぐもぐ しているピヨ。
うれしくて、ほっぺを まっかにしながら、ぽろぽろ なみだも でちゃってるピヨ。
あったかい あかりと おつきさまが、ヒヨコくんを やさしく つつんでいるピヨ〜🌙🍙

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