お昼の出来事は、ヒヨコくんの胸の奥に、ずっと引っかかったままでした。
お片づけを後回しにして遊びに行こうとしたヒヨコくんを、ヒヨコママが呼び止めたのです。
「ヒヨコくん。まずはやることを終わらせなさい」
本当は、それだけのことでした。
でもヒヨコくんは、なんだか急に悔しくなってしまいました。
「わかってるピヨ!」
つい強い声を出してしまい、そのままぷいっと部屋へ戻ってしまったのです。

しばらくすると怒りは消えました。
でも代わりに、胸の奥に重たい気持ちが残りました。
――あんな言い方しなければよかったピヨ。
――ママ、悲しい顔してたピヨ……。
夕方。
キッチンから、ことことと優しい音。
湯気といっしょに、ごはんのいい匂いが流れてきます。
「ごはんできたわよー」
ヒヨコママの声を聞いた瞬間、ヒヨコくんの胸がきゅっと縮みました。
本当は行きたい。
みんなと一緒にごはんを食べたい。
でも――。
「今さら行ったら、なんだか負けたみたいピヨ……」
そう思ってしまって、ベッドの端で羽をぎゅっと握ります。
「ボクはいらないピヨ」
強がって言ったものの、お腹は正直でした。
ごはんの匂いをかぐたびに、きゅるる……と小さく鳴ります。

夜。
部屋の明かりが消え、時計の針の音だけが静かに響いていました。
布団の中で丸くなったヒヨコくんのお腹が、
「ぐぅ……」
思わず羽でお腹を押さえます。
空っぽなのは、お腹だけじゃない気がしました。
――ママ、まだ怒ってるかな。
――嫌われちゃったかな。
――ちゃんと謝れるかな……。
考えるほど胸がむずむずして、眠れません。
ヒヨコくんは、そっと布団を抜け出しました。
床を歩く足音をできるだけ小さくして、静かなキッチンへ向かいます。
すると、明かりの下にはヒヨコママがいました。
湯のみを片づけながら、まだ起きていたのです。
その背中を見た瞬間、ヒヨコくんの喉がきゅっとつまります。
「……ママ、ごめんピヨ」
声は、思ったよりかすれていました。
「大きい声出して、ごめんなさいピヨ……。
ちゃんとお片づけするピヨ……。
……お腹、すいたピヨ……」
ヒヨコママは振り返り、しばらく何も言わずにヒヨコくんを見ました。
その沈黙が少しだけ長く感じられて、ヒヨコくんの心臓がどきどきします。
でも次の瞬間。
ヒヨコママは、やさしく目を細めました。
「ちゃんと謝れてえらかったわね」
その言葉を聞いた瞬間、ヒヨコくんの胸に、ふわっと温かいものが広がりました。
「……うんピヨ」
自然と、にっこりしていました。
ヒヨコママがそっと渡してくれた小さなおにぎりは、ほんのり温かくて、
ひと口かじると、涙が出そうになるくらいやさしい味がしました。
夜中に食べるおにぎりは、
ただお腹を満たすだけじゃなく、
「もう大丈夫よ」って言われているみたいな味がしたのです。
ヒヨコくんは、心の中でそっと思いました。
――素直になるのは、ちょっとこわいピヨ。
でも、その先には、こんなにあったかい時間が待ってるんだピヨ。

※アイキャッチの説明(視覚障害者用代替テキスト)
よるの キッチンで、ヒヨコくんが おにぎりを もぐもぐ しているピヨ。
うれしくて、ほっぺを まっかにしながら、ぽろぽろ なみだも でちゃってるピヨ。
あったかい あかりと おつきさまが、ヒヨコくんを やさしく つつんでいるピヨ〜🌙🍙

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