ある日、ヒヨコ三兄弟が海辺であそんでいると、
波打ちぎわで、カメさんが苦しそうにしていました。
「あしが……動かないよ……」
海そうがからまり、
身動きが取れなくなっていたのです。
「だいじょうぶピヨ!」
ヒヨコくんは、胸がぎゅっとなって駆けよりました。
ぴもんくんは、ゆっくり、ていねいに海そうをほどき、
ひよたくんは、そっとカメさんの背中をなでました。

「もう、だいじょうぶピヨよ」
カメさんは、大きく息をして、
何度も何度も頭を下げました。
「ありがとう。おれいに、すてきなところへ
つれていってあげたいです」
ヒヨコ三兄弟は、その誘いに乗ることにしました。

そのまま、
カメさんの背中にのって、
ヒヨコたちは海の中へ――
そこには、
やさしい光に包まれた竜宮城がありました。

くらげのランプがゆらゆら光り、
貝のおさらにはごちそうがならび、
音楽は、心をとろりとほどいてくれます。
「すごいピヨ……」
ヒヨコくんの目は、きらきらしました。
でも、
ひよたくんの胸は、なぜか少しだけ重くなりました。
「……ママ、心配してないかな」
その言葉に、
ヒヨコくんの胸も、ちくりとしました。
楽しい時間は、
あっというまに過ぎていきます。
「まだ帰らなくていいですよ」
カメさんは、やさしく言いました。
そのとき、
ヒヨコくんは、
自分の中にある気持ちに気づきました。
「楽しいピヨ。でも……
帰りたいピヨ」
帰りぎわ、
カメさんは、小さな箱を差し出しました。
「これはたまてばこ。
もし、あとで困ったら、あけてください」
ヒヨコくんは、
なぜか胸がざわざわしながら、
箱を受け取りました。
地上にもどると、
景色が少しだけ、ちがって見えました。
木が高く、
道が長く、
知っているはずの場所なのに、知らない感じ。
「……時間が、たったんだピヨ」
ひよたくんが、小さく言いました。
三人は家へ向かいましたが、
そこにあったのは、知らない家でした。
ヒヨコくんは、座りこんでしまいました。
「ボクが……楽しいって言ったからピヨ……
早く帰ろうって言えなかったピヨ……」
ぴもんくんは首をふり、
ひよたくんは羽をぎゅっとにぎりました。
「三人で決めたんだピヨ」

そのとき、
ヒヨコくんは、リュックの中のたまてばこを思い出しました。
「……あけたら、なにか変わるかもしれないピヨ」
ヒヨコくんは、
リュックの中のたまてばこを、出して抱きしめました。
「……あけてみるピヨ」
ふたをあけると――
ぽわぁ……っと、
まぶしくて、あたたかい光があふれました。
光は、
ヒヨコくんたちをやさしく包みこみ、
ささやきました。
「まだ、えらびなおせるよ」
次の瞬間。
ヒヨコくんは、
砂浜に立っていました。
目の前には、
海そうがからまったままのカメさん。
「……あれ?」
ぴもんくんと、ひよたくんも、
はっとしてまわりを見ました。
時間が、もどっていたのです。
さっきと同じように、
三人はカメさんを助けました。
そして、
カメさんは、同じ言葉を言いました。
「おれいに、すてきなところへ――」
そのとき。
ヒヨコくんは、
一歩前に出て、首をふりました。
「ありがとうピヨ。
でも……今回は、行かないピヨ」
カメさんは、びっくりしました。
「どうしてですか?」
ヒヨコくんは、
少し照れながら、でも、はっきり言いました。
「楽しいのは、わかるピヨ。
でも、ボクたち、
今いる場所を大事にしたいピヨ」
ひよたくんも、うなずきました。
「おうちで待ってる人がいるんですピヨ」
ぴもんくんも、にこっとしました。
「また、会えたらうれしいピヨ」
カメさんは、しばらく考えてから、
にっこり笑いました。
「それは、とても立派なえらび方ですね」
そして、
静かに海へ帰っていきました。
夕方。
ヒヨコ三兄弟は、
いつもの家へ帰りました。
ヒヨコママは、
三人を見つけると、ほっとした顔で言いました。
「おかえり」
その一言で、
ヒヨコくんたちの胸は、いっぱいになりました。
おしまい
※アイキャッチの説明
ヒヨコ三兄弟が海べでにっこりならんでいるピヨ。
ヒヨコくんはカメさんの背中にのって、たまてばこをだいじそうに持っているピヨ。
ぴもんくんはやさしいかおで、ひよたくんはピンクのスタイでにこにこピヨ。
うみとおそらがきらきらして、あったかいぼうけんのはじまりのえピヨ。
