アニマルランドには、いつも穏やかな空気をまとった夫婦がいました。
ヒヨコパパとヒヨコママです。
ふたりは五年前に結婚しました。
けれど、その頃ヒヨコパパは海外のお仕事で世界中を飛び回っていて、
「落ち着いたらね」
その一言を何度も交わしたまま、結婚式はできずにいました。
それでも、ヒヨコママは文句ひとつ言いませんでした。
朝ごはんを作り、庭の花に水をあげ、
夜には「今日はどんな空だった?」と電話越しに聞く。
ヒヨコパパも、どんなに忙しくても、
必ず家族の声を聞いてから眠りました。
そんなふたりを、ヒヨコ三兄弟はずっと見てきたのです。
ある夜。
夕飯のあと、ヒヨコママがふとカレンダーを見つめていました。
「もうすぐ……五年ね」
その声はやさしかったけれど、
ヒヨコくんは、ほんの少しだけ寂しさを感じました。
その夜、三兄弟はこっそり集まりました。
「ボクさ、思ったピヨ」
ヒヨコくんは、珍しく真面目な顔でした。
「パパとママ、結婚式してないまま5年もたったピヨ!ボクたちが“結婚式”をプレゼントするピヨ」
ぴもんくんは、フィッシュアーモンドを抱えながら、
「むずかしそうピヨ……でも、ママ、喜ぶピヨ?」
と不安そう。
ひよたくんは、ゆっくりとうなずきました。
「失敗しても大丈夫ピヨ。
ちゃんと考えて、ちゃんと気持ちを込めれば」
その言葉で、決まりました。
次の日から、準備が始まります。

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それぞれの役目、それぞれの気持ち
ヒヨコくんは、手紙係。
けれど、ペンを持つと、言葉が出てきません。
「ありがとうって言葉じゃ……簡単すぎるピヨ」
「でも、書かないと伝わらないピヨ」
何度も書いては消し、紙はしわくちゃになっていきました。
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ぴもんくんは、ケーキのデコレーション係。
甘い香りに包まれながらも、心はそわそわ。
「失敗したらどうしようピヨ」
クリームをしぼりながら、
「ここにフィッシュアーモンド……」
とつぶやくたびに、
「それはダメピヨ」
と全員から止められました。
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ひよたくんは、式場の飾り付け。
誰よりも丁寧だけれど、だからこそ悩みます。
花の高さ、リボンの色、風で揺れたときの見え方まで、
何度もやり直します。
「これでいいのかな……」
夜になっても、リボンを結び直していました。
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すーさんは招待状係。
自分の字を見て、しばらく黙り込みます。
「……読めるかな、これ」
でも、深く息を吸って、書き続けました。
「大事なのは、心だぞう」
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ベルちゃんとエルちゃんは受付係。
並んで立つ練習をしながら、
「ちゃんと笑えるかな」
「間違えたらどうしよう」
と、小さく手を握り合いました。
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リンちゃんは司会。
原稿を何度も読み返しては、
「声が震えたら……」
と、耳まで赤くなります。
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よいちゃんとピヨちゃんは料理とドリンク係。
静かな台所で、火加減を見ながら、
「お祝いの日のごはんって、緊張するね」
「でも、あたたかい気持ちが伝わるようにしようピヨ」
と、何度も味を確かめました。
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そして当日
式場は、ひよたくんが何度も整えた花とリボンでいっぱい。
リンちゃんの声は少し震えながらも、
確かに、式の始まりを告げました。
ヒヨコママがバージンロードに立つと、
ヒヨコ三兄弟はそっとドレスの裾を持ちました。
一歩、また一歩。
ぴもんくんは真剣な顔で裾を持ちながら、
「ケーキ見えないピヨ……」
とつぶやき、
「今は見るとこ違うピヨ」
ひよたくんが小声で注意しました。
ヒヨコママは、そのやり取りに思わず微笑みながら、
一歩一歩、前へ進みます。
ヒヨコパパの前まで来たとき、
ヒヨコママは小さく息を吸いました。
その空気を感じて、
ヒヨコくんは「心を込めて読むピヨ!」と思いました。
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手紙の前の、静かな時間
リンちゃんが言います。
「それでは……ヒヨコくんからの、お手紙です」
ヒヨコくんは、胸がどきどきして、
一瞬、言葉が出ませんでした。
会場が静まり、
みんなが待ってくれているのが、わかりました。
ヒヨコくんは深く息を吸い、
ゆっくりと顔を上げました。
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ヒヨコくんの手紙
「パパ、ママ。
ボク、最初は何を書いていいかわからなかったピヨ。
だって、ありがとうだけじゃ、足りないピヨ。
パパが遠くに行ってたとき、ママは毎日、笑ってたピヨ。
でもボク、知ってるピヨ。
夜、ひとりで空を見てたこと。
ママはいつも『大丈夫』って言ってたピヨ。
でも、ボクは知ってるピヨ。
その声が、ちょっとだけ小さかったこと。
ママが元気なときも、眠れない夜も、
パパは欠かさず電話してたピヨ。
『うん、うん』って、世界のどこにいても。
ボクたちは、そんなふたりを見てきたピヨ。
結婚式がなくても、
ふたりはずっと、一緒だったピヨ。
そして今日、
五年分の『おめでとう』を言いたいピヨ。
これからも、
さみしい日も、うれしい日も、
一緒に笑ってくださいピヨ。
ボクたちのパパとママでいてくれて、
ありがとうピヨ」

⸻
会場には、すすり泣きと、あたたかい拍手。
指輪を運ぶ三兄弟の足は、少し震えていましたが、
しっかりと、ふたりのもとへ届きました。
料理とドリンクが配られ、
みんなの顔には、安心した笑顔が広がります。
ヒヨコパパは、ヒヨコママの手を握り、
静かに言いました。
「五年待ったけど……最高の日だね」
ヒヨコママは、涙を浮かべながら、
「待ってよかった」
と答えました。
その日、アニマルランドは、
五年分の想いで、やさしく満たされていました。

アフターストーリー
― ブーケの行方 ―
式が無事に終わり、
夕暮れのアニマルランドには、まだお祝いの空気がふわふわと残っていました。
「それじゃあ……最後のお楽しみです」
少しだけ余裕が出てきたリンちゃんが、マイクを握ります。
ヒヨコママは、白いブーケを胸に抱え、くるりと振り返りました。
「ブーケトス、いくわよ」
集まったのは、ベルちゃん、エルちゃん、ピヨちゃん、よいちゃん、リンちゃん。
みんな少し照れながらも、期待でそわそわしています。
……その後ろで。
「ん? なんか投げるのかぞう?」
すーさんが、のんびりと腕を組んで立っていました。
ヒヨコママが、
「いくわよー!」
と声をかけ、ブーケを空へ。
ふわっと舞い上がったブーケは、
風に流され——
ぽすっ。
「……取れたぞう?」
次の瞬間、
すーさんの大きな鼻の中に、白いブーケ。
一拍の沈黙。
「えっ」
「ちょっと待って」
「うそでしょ」
次の瞬間、
「ブーーー!!!」
と女子たちの大ブーイングが巻き起こりました。
「なんで後ろにいたの!」
「参加資格ないでしょ!」
「返して!」
すーさんは、きょとんとしながら、
「え? だって飛んできたぞう……」
と、悪気ゼロ。
ヒヨコママは思わず吹き出し、
ヒヨコパパは肩を揺らして笑いました。
「すーさん、すごい運だね」
「でも……これはさすがに反則ね」
最終的にブーケは、
「今日は“幸せのおすそわけ”ってことで!」
ということになり、
みんなで順番に触る、という平和な結末になりました。
すーさんは最後に、
「いい匂いだぞう」
と、にこにこしていました。

※アイキャッチの説明(視覚障害者用代替テキスト)
ヒヨコ三兄弟がプレゼントを持って並んでいるピヨ✨
パパとママは後ろで結婚式スタイルでにっこりピヨ💍
「5年分のおめでとう」があたたかく輝いているピヨ🌸
