ある日の午後、ヒヨコ三兄弟は広場で「かけっこ大会」を開くことになりました。
「よーし!ボクがいちばん速いところを見せるピヨ!」と胸を張るのはヒヨコくん。
ぴもんくんは「ゴールにおやつが待ってたら、もっと頑張れるのにピヨ…」とすでに頭の中はおやつでいっぱい。
ひよたくんは「転ばないように、最後まで走りきることを目標にするピヨ」と真面目に準備運動をしていました。
「位置について…よーい、どん!」
スタートの合図とともに、三兄弟は一斉に走り出します。
ヒヨコくんはぐんぐん加速して、あっという間にトップ。
後ろを振り返りながら、わざと声を大きくしました。
「やっぱりボクが一番ピヨ!二人ともまだまだだピヨ!」
その声に、ぴもんくんはちょっぴりむっとしましたが、息を整えながらにこっと笑いました。
「でもボク、今日は転ばずに走れてるピヨ!前はすぐこけちゃったけど、少し上手になったピヨ!」
ひよたくんも、必死に足を動かしながら言いました。
「ボクも、最後まで歩かずに走りきれそうピヨ。前よりずっと長く走れてるピヨ!」
二人の言葉を聞いたヒヨコくんは、一瞬足を止めてしまいました。
「……あれ?ボクは速さばかりで頭がいっぱいだったピヨ。でも二人は、自分ができるようになったことを見つけて、喜んでるピヨ…」
その時、ゴールのほうでピヨちゃんが手を振っていました。
「みんな、すごかったピヨ。誰が一番速いかじゃなくて、昨日より成長できたことを喜べるのがほんとうにすてきピヨ」
ヒヨコくんは胸が熱くなり、二人のもとに駆け寄りました。
「ぴもんくん、ひよたくん、ごめんピヨ。ボク、自分が1番早いって喜んでたピヨ。でも本当は…ボクも前よりもっと速く走れるようになったことを、喜びたかったんだピヨ」
三兄弟は顔を見合わせてにっこり笑いました。
その後は、速さを競うよりも「昨日よりできたこと探し」を遊びに変えて、何度もかけっこを楽しんだのでした。
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ことばのおくりもの
人を見下して感じる喜びは、風のようにすぐに消えてしまいます。
けれど、自分の成長を見つめて感じる喜びは、大地のようにしっかりと心を支えてくれるのです。

